2019年3月10日 巻頭言

「そういうわけで、離れていてこれらのことを書いているのは、私が行ったときに、主が私に授けてくださった権威を用いて、厳しい処置をとらなくてもすむようになるためです。この権威が私に与えられたのは、建てるためであって、倒すためではありません。」

コリント人への手紙第二 13章10節

 本書はパウロ書簡の中で最も個人的色彩の強い書で、自分の感情をありのままに吐露しているので「伝道者のはらわた」とまで称されている書です。特に十章以降は、皮肉、自慢、自虐、一見矛盾と思われる逆説的な表現が多くみられます。三度目の訪問を前に、悔い改めていない人々に対して、厳しい処置を取ることを予告(13・2)しています。しかし、根底にあるのは、自らが伝道して建ちあげた教会・人々に対しての溢れるばかりの愛でした。ですから手紙全体の締めくくりに、実際に訪問した際に厳しい処置を取らないですむように、彼らに受けとめてほしいことをいくつか記しています。
 まず、手紙を書いた目的が、建てるためであって倒すためではないと知ってほしいということでした。それにしては厳しすぎる・・・と思わなくもない手紙の書き方ですが、敵対者の反抗がそれほどのものであったからでしょう。そして、自分の信仰を吟味してほしいと訴えています。しかも、この「吟味しなさい」は、本物かどうか厳しく自己吟味せよというような叱責調の否定的な意味合いではなく、本物である証拠を見いだして確信を強めなさいという、肯定的な響きがあることばか使われています。さらに、慰め合い、思いを一つにして平和を保つように勧めています。そうすれば、愛と平和の神はともにいてくださると、神の臨在を宣言し、祝福の祈りをもって。手紙を閉じています。
 コリントの人々にとって「伝道者パウロのはらわた」は、苦みだけではなかったことでしょう。

協力牧師 石田いつ子